古代から現代までの歴史
極楽寺について
- - 古代〜江戸時代まで
- - 江戸時代
- - 石炭勃興期 ―第15世住職・教盈の時代―
- - 石炭全盛期 ―第16世住職・暁山の時代―
- - 極楽寺本堂誕生 ―第17世住職・了暁の時代―
- - 激動の昭和 ―第18世住職・了宣の時代―
- - 極楽寺本堂完成 ―第19世住職・了司の時代―
- - 極楽寺の歴代住職
- 極楽寺の寺族は代々、麻生姓を名乗っています。
- その由来は、鎌倉幕府の創設を支え、筑前国遠賀郡の地頭となった僧侶「一品房昌寛」と伝えられ、その昌寛の養子として麻生左衛門督朝長の次男・家政を迎えたことにより、「麻生」の名を持つ武士が現在の北九州市を広域に渡って支配したことから始まるようです。
- 麻生氏は当初芦屋山鹿を根拠地としており、山鹿麻生と称していましたが、その後大内氏の傘下に入った麻生氏は、複雑堅牢であった花尾山に城を構え、現在の北九州市一円を支配していました。
若松古地図
- 麻生氏はその後宗像氏との戦いに敗れ、遠賀川以西を宗像氏に割譲してから勢力が衰えます。豊臣秀吉の九州征伐後には筑後に転封となり、現在の北九州市の一部・福岡市を含めた筑前国の治政は黒田長政に移ることとなります。
- 極楽寺はこの麻生氏と何らかの繋がりがあったものと思われる開基住職・道了によって寛正元年（1460 年）草創されたと伝えられます。当初は“妙楽寺”と称し、天台宗の寺院だったようです。場所も現在地とは異なり、正保寺町（旧若松市立病院の西、現在の白山付近）にありました。
現在の正保寺公園
古代〜江戸時代まで
- 1480年（文明12年）、若松に訪れた飯尾宗祇が『筑紫道記』で「移り行きて筑前国若松の浦といふに着きぬ」と記したように、江戸時代以前の若松は筑前国遠賀郡の一漁村でしかありませんでした。地方の一漁村から活気に満ちた町として発展の道を辿るようになるのは、江戸時代に入ってからのことです。
天本幾男様作の江戸時代以前の洞海湾岸古地図 極楽寺はその当時“妙楽寺”という寺号だった
- 黒田氏治世の筑前国では、当初、年貢米集積地として遠賀郡芦屋町を定めていました。しかし、遠賀川の氾濫と響灘の海難などにより、芦屋港の利用は徐々に難しくなっていきます。
- そこで、黒田氏は遠賀川から洞海湾までを繋げる堀川運河開削を難工事の末、1762（宝暦12年）に完成させ、遠賀川から堀川を経由して洞海湾沿岸に年貢米を集積させるようになります。堀川から遠賀川、洞海湾に至る河川交運の利便性が着目されるようになり、徐々に穀物以外の貸物も若松に集められるようになります。こうして、港湾都市としての若松の発展が幕を開けたのです。
船が行き交う洞海湾
- そんな中、極楽寺は第4世住職・了順の代に現在地に移設し、それまでの天台宗から、人々の暮らしに溶け込んでいた浄土真宗に改宗します。寛文２年（1662年）12月13日、ご本山である本願寺第14 代寂如宗主の裏書きがある阿弥陀如来画像を賜り、浄土真宗本願寺派（西本願寺）に属する寺院となりました。
- 当山の過去帳は、萬治元年（1658 年）正月14日の日付分から現存し、これを見ると、安屋村・竹並村などに住む門徒の過去帳が確認でき、当時から広範囲に渡って門徒を抱えていたことが窺い知れます。
極楽寺の過去帳
江戸時代
- 遠賀川流域の炭田が、いつごろから採掘され始めたのかは明らかではありません。石炭に言及している最古の文献である『福岡藩民政誌略』によれば、文明10年（1467年）3月、遠賀郡香月村の畑山金剛山で、住民が“黒い石”を掘り出しているのを大内氏の家臣・杉興利が見て、これを篝火に使用した、とあります。当初は薪の代用品として自家用燃料に利用されていましたが、18世紀に入ると製塩用の燃料としても活躍します。瀬戸内地方の塩田で筑豊の石炭焚き技術が広まると、筑豊炭も需要が急増します。これを受け、筑前藩も石炭採掘を奨励し、若松に藩の石炭専売機関である「焚石会所」を設置して、石炭の採掘・販売の取り締まりにあたらせるなど、石炭積出港としての繁栄の基礎が確立されていきます。
- その頃極楽寺は、江戸中期〜後期に発生した大火により、堂宇は灰燼に帰し、再建する継承者もなく、住職も絶え絶えで存亡の危機に立たされていました。
- 元治元年（1864年）、穂波郡大谷村字幸袋の無極寺の住職、吉留教詮の弟・教盈が入寺し、極楽寺を再興します。
第15世住職・教盈
- 教盈は遠賀光林寺から綾を娶り、懸命に極楽寺を立て直しますが、子宝に恵まれず、垣生の専光寺から暁山を養子に迎えます。
石炭勃興期
―第15世住職・教盈の時代―
- 石炭の採掘販売は天保年間以来、藩によって統制されていましたが、明治維新後、民間による炭鉱開発の許可が降り、明治5年（1872年）に石炭の自由販売が開始されます。明治14年（1881年）には、杉山徳三郎が初めて蒸気機関やポンプを炭鉱に導入することに成功したことで、画期的な増産体制が確立し、これを契機に、筑豊御三家と呼ばれた貝島・麻生・安川をはじめとした地元の炭鉱主たちに加え、三井・三菱・古河・住友などの名だたる中央大手資本家も次々に筑豊地方へと進出していきます。設備や技術も飛躍的に伸び、採掘方法も大規模化していきました。
- 筑豊炭田の開発が急激に進んでいき、石炭の積出量が大幅に増える中、積出港としての若松港の重要性は年々高まっていきます。ただしその当時の洞海湾は干潮時には干潟が露出するほど浅い海だったため、増加する入港船や大型化する船への対処は急務でした。そこで、多くの炭鉱・鉄道関係者が私財を投げ打って、明治23年（1890年）に「若松築港会社」（現在の若築建設）を創業します。この「若松築港会社」を動力源とし、若松港を整備する築港工事が始まります。
- 安川敬一郎や麻生太吉ら資本家たちの尽力もあり、若松港は年々整備が進んでいきます。港整備に伴い、国内の石炭需要が急増し、若松港には石炭輸送船がさらに集まります。港内では、炭鉱から運ばれた石炭を、船から手作業で積み込む石炭荷役人たちが活躍します。彼らは「ごんぞう」と呼ばれました。
“ごんぞう”たち
- 洞海湾はこの積み出し作業待ちの船で埋め尽くされ、若松の街はごんぞうたちや、全国から職を求めてくる者たちで溢れ、大いに賑わいました。
- 明治30年（1897年）2月、日本初となる鉄鋼一貫の製鉄建設地に遠賀郡八幡村が決定。北九州市が全国有数の工業都市として大きな歩みを進めた瞬間でした。製鉄所誘致に伴う大型船の出入りを想定して洞海湾の浚渫工事を実施し、工業都市の要となる洞海湾の整備は益々充実してきます。
- 八幡製鉄所誘致が追い風となり、石炭集積地の賑わいのみならず、商工業の中心地として若松は全盛期を迎えることになります。
華やかだった中川通り 昔は大手都市銀行やデパートもあった
- その頃、極楽寺は垣生の専光寺から入寺した第16世住職・暁山の代であり、石炭景気によって繁栄を謳歌していた若松の勢いを投影するように、極楽寺も発展を重ねていきます。
第16世住職・暁山
- 当山記録では、明治32年（1899年）に「本座永代一等昇進 当院十六世麻生暁山之代」との記録があり、当時の御門徒の有力者が西本願寺に多大な尽力をし、それによって極楽寺の寺班が昇進したとの記述が見られます。当時の若松は、急激に財力を持つようになった石炭成金たちと、旧庄屋格の名家たちが一体となって地域社会を盛り上げ、寺院にも多大な貢献をしてくれました。
石炭全盛期
―第16世住職・暁山の時代―
- 第16世住職・暁山は、昭和41年（1908）年7月30日、享年49歳で往生の素懐を遂げ、まだ17歳であった暁山の嫡男・了暁が第17世住職として就任しました。
第17世住職・了暁
- 一方、この頃の若松は経済のみならず文化的にも先進性にあふれ、各界の識者も多数極楽寺を訪れました。
- 大正4年（1915年）8月30日には庫裡上棟式が華々しく行われ、1ヶ月後の9 月30 日には佛教婦人会本部長 九条武子様がご来臨。新築した庫裡にお迎えしました。
- 当山記録では、「八月三〇日庫裏上棟式ヲ執行盛大ナリキ。上棟式紅白旗打ヒルガエシ大工、米弐俵、撒餅十俵酒一丁半簡単ナル祝盃ヲアグ」とあり、庫裏上棟式が盛大に行われたことが記されています。
大正4年 庫裏上棟式
大正4年 庫裡上棟式九条武子様婦人会奨励のため極楽寺にご来臨
大正7年 宗祖大師650回大遠忌法要
- また、大正6年（1917年）6月、歌人の与謝野晶子は夫の寛（鉄幹）と旧若松市に立ち寄り、ここ極楽寺で講演会を行います。当時の門司新報によると、本堂に大勢の女学校生徒や一般市民が詰めかけるなか、15日午後２時と午後７時の２回にわたり講演が行われ、婦人問題や愛、文明論など、若松の人々に時代の風を伝えました。
- 現在の極楽寺本堂は、第17世住職・了暁の発願で昭和4 年（1929年）8月23日に起工。門信徒一丸となっての協力が結晶し、翌年9月に竣工しました。過去帳によると、昭和4年（1929年）10月18,19日の「地搗き（じつき）」には、加勢人がのべ2,600名、昼食握飯二石、酒三挺、「赤ト黄ノ手拭ヲ与エ、前代未聞ノ大盛況也」と記され、昭和5年（1930年）4月の「本堂上棟式」には、「持寄徹餅十俵、吹貫一流、五色旗、群集二千人」とあり、極楽寺本堂建設は門信徒の枠を超え、若松地区全体の一大事業であったことが伺えます。
昭和4年、本堂地搗き
昭和5年、本堂上棟式、本堂外側から
昭和5年 本堂上棟式の様子
- 昭和6年（1931年）4月25日から29 日にかけては、本願寺勧学・雲山龍珠和上をお迎えして盛大な落成入仏慶讃法要を厳修。紫宸殿（ししんでん）造りの大伽藍は、全国でも稀な昭和の本格寺院建築として、今もその偉容を誇っています。
昭和5年建設当時の極楽寺の本堂
極楽寺本堂誕生
―第17世住職・了暁の時代―
- 了暁は本堂造立に神経をすり減らし、大法要からわずか2年後の昭和8年（1933）年2月10日、44歳で夭折しました。了暁は自分の命と引き換えに、本堂勧進を成就させました。まさに命懸けの大仕事でした。
昭和8年 第17世住職・釈了暁の葬儀 この時 嫡男・了宣は弱冠9歳であった
- 了暁の葬儀について、当山記録では、「十日午後二時〇七分、浄満院釈教師、当山第十七世住職、四十四才、密葬 二月十一日午後五時、本葬 三月四日午後三時ヨリ五時二十分迄、会葬法中 八拾ヶ寺 役僧十一名、会葬者 約二千人」とあり、盛大な葬儀だったことが窺えます。
第18世住職・了宣
- 第１８世住職・釈了宣は、親鸞聖人700回忌大遠忌法要や極楽寺開基500年法要のほか、記念事業として現在の門信徒会館の建設などを手がけました。これが現在の門徒会館で、竹中工務店施工の、当時としてはモダンかつ先進的なデザインの門徒会館でした。
極楽寺門徒会館 当時にとしてはかなりモダンな会館であった
- 第18世住職・了宣は、昭和55年（1980年）12月20日、享年55歳にして往生しました。当時のご本堂の屋根瓦は倒壊寸前で、雨漏りは尋常ならざるものがあり、大きな思いを残しての往生でした。
激動の昭和
―第18世住職・了宣の時代―
- 翌昭和56年（1981年）には、現住職、第19世・釈了司が継職。本堂・山門屋根瓦の修復工事や、痛んだ内陣仏具の一部修復を果たし、昭和58年（1983 年）5 月には本願寺様前ご門主様をお迎えして、住職継職と併せ落成慶讃法要を行いました。
昭和56年 本堂山門修復落成・第19世住職継職大法要修行
- そして平成13年（2001年）、内陣荘厳工事が竣工します。内陣荘厳彩色は井澤仏具が施工し、安土桃山美術をコンセプトに、枡組、虹梁、柱巻きの極彩色や、総純金箔押し、金具打ちの折り上げ内陣天井など、一年半に渡る塗箔彩色工事で、正面から見えないところまで拘り抜いたものになっています。第十九世住職・了司の執念と極楽寺門信徒の甚大なるご協力により、建設着工から82 年、了暁・了宣・了司３代の星霜を経て、極楽寺本堂はついに完成の時を迎えます。
2000年に京都・井澤仏具によって塗箔彩色された極彩色の極楽寺本堂
- 平成13年（2001年）の極楽寺内陣修復慶讃大法要では、全体でのべ１２００人以上の大盛況、稚児行列は４００人以上の大行列、商店街には紙吹雪が舞い、石炭時代の若松の隆盛ぶりが帰ってきたようでした。
平成13年 本堂内陣修復大法要修行 先頭は会奉行の昭然寺様・放光寺様
平成13年 大法要時の稚児行列写真 穴見法務員の後ろは 有吉パン店主である
平成13年 大法要時の祝賀舞楽
平成13年 大法要時の記念写真
- 又、近年では変容する時代の流れに伴い、子供たちの安全と健康に最大限配慮した精華幼稚園を移転新築、そして、永代制度も完備した第二納骨堂も新設しました。
- 激動の時代を生き抜き、言葉に尽くせぬ幾多の困難を超えて、これからも極楽寺はここ若松の地で、ご門徒様と共に歩んで参ります。
極楽寺本堂完成
―第19世住職・了司の時代―
極楽寺の歴代住職
| 第一世 | 道了 |
|---|---|
| 第二世 | 恵道 |
| 第三世 | 秀円 |
| 第四世 | 了順 |
| 第五世 | 智秀 |
| 第六世 | 秀応 |
| 第七世 | 秀因 |
| 第八世 | 嶺秀 |
| 第九世 | 泰俊 |
| 第十世 | 泰問 |
| 第十一世 | 大潮 |
| 第十二世 | 海蔵 |
| 第十三世 | 宝梁 |
| 第十四世 | 速遁 |
| 第十五代 | 教盈 |
| 第十六世 | 暁山 |
| 第十七世 | 了暁 |
| 第十八世 | 了宣 |
| 第十九世 | 了司 |
- 福岡県若松市役所『若松市史』同上、昭和21年
- 若松市史第二集編纂委員会『若松市史 第二集』福岡県若松市役所、昭和34年
- 芦屋町誌編集委員会編『芦屋町誌』芦屋町役場、昭和47年
- 若築建設株式会社『若築建設百年史』同上、平成2年
- 北九州市役所・株式会社ゼンリンプリンテックス『若松物語 特別号』同上、平成28年